Beranda / ミステリー / 水鏡の星詠 / アリシアとセラ ①

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アリシアとセラ ①

Penulis: 秋月 友希
last update Terakhir Diperbarui: 2025-06-18 22:54:34
 リノアたちが出発してから、二、三日の時が流れた頃、街の広場に一団の旅人たちが姿を現した。

 アークセリアの門は誰を拒むこともなく、いつものように優雅に開かれており、世界のあらゆる道を受け入れている。陽が最も高く昇るその瞬間から、この街で彼らの物語は始まって行くのだ。

 昼の風が彼らの髪をやわらかく揺らし、旅の疲れを和らげるように優しく吹き抜ける。草花の香りが漂い、遠くから響く鐘の音が彼らを迎えるようにこだました。

 風にたなびくコート、土埃をまとった靴音、背に担いだ荷の重み。旅路の疲労を感じさせる者もいれば、目に輝きを宿す者もいる。

 活気あふれる街の音が彼らを迎え、石畳を踏みしめる足音が賑わいの中へと馴染んでいく。行き交う街の人々の視線が一瞬だけ彼らの存在を捉えるが、すぐに日常の流れへと戻していった。

 その中に、ひときわ目を引く人物がいた。金の髪を風に揺らし、姿勢を崩さずに歩くその女性――アリシアだった。

 旅装に身を包んでも、その佇まいには舞踏家としての気品が根付いている。

 アリシアの瞳が街の風景を筆でなぞるように巡った。懐かしさと、どこか張り詰めた想いを湛えながら。

──アリシア……どうしてここに?

 セラの足が止まった。活気ある街のざわめきが遠のき、目の前の光景だけが鮮やかに浮かび上がる。

 風を切るように颯爽と歩み寄ったアリシアがセラの前に立った。

「久しぶり、セラ。どうしたの? そんな顔して。私がここにいたって不思議じゃないでしょ?」

 まるで旧友との再会を心から楽しむように、軽快な口調で言い放った。アリシアは以前と変わらぬ笑顔を浮かべている。

「タリスって人から聞いたよ。危ない目に遭ったんだって?」

 その言葉にセラはわずかに視線を落とす。

「おかしな光を見たから、これ以上、進んじゃいけないと思って……」

 あの時の記憶が脳裏をかすめる。冷たい輝き、胸を締めつけるような違和感。

「引き返して正解だったんじゃない? それで、大丈夫だったの? 怪我とかしてない?」

 アリシアが心配そうにセラを見つめる。

「うん……大丈夫。走って逃げたから」

 セラは微笑みながら頷いたものの、胸の奥にはまだざわつくものが残っていた。あの光が何だったのか、考えれば考えるほど不安が形を持ち始める。

「何だったんだろうね、その光……。最近、見慣れない人たちが増えてるみたいだ
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